狭小住宅の問題と購入するときの注意点
– 離隔距離やビルトインガレージの耐震性能について –

狭小住宅を購入する時の注意点

狭小住宅では離隔距離に注意

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都市部に多い『狭小住宅』

狭小住宅の定義

都市部では、敷地面積20坪前後の土地に3階建てで建てられた一戸建てが数多く分譲されています。
明確な定義はありませんが、一般にこのような住宅のことを『狭小住宅』と呼んでいます。

狭小住宅が抱える問題

狭小住宅には、離隔距離、建築物の高さの問題、耐震性能の問題などが存在します。

これを踏まえて、ゼロシステムズでは狭小住宅を仲介する時には必ず、住宅診断と耐震診断を実施しています。
ここでは、専門家の目線で、狭小住宅を購入する際の注意点について説明させて頂きます。

狭小住宅

『狭小住宅』の注意点を解説します


離隔距離が足りない住宅の注意点

離隔距離とは敷地境界から建物までの距離

離隔距離

隣の住宅との間隔が狭い住宅

『離隔距離』とは、敷地境界から建物までの間の距離のことを言います。

民法では、離隔距離を50㎝以上確保して建築するとされています。
しかし、都市部の建築物を見ると、離隔距離が50㎝以上確保されていない狭小住宅も珍しくありません。
これは、隣接地の同意があれば、離隔距離を50㎝以上確保しなくても、合法的に建築できることになっているからです。

ただし、合法的に建築できても離隔距離50㎝以上確保されていない狭小住宅では、何らかの問題が発生する可能性があります。

離隔距離不足による問題

エアコン室外機の設置ができない
エアコン室外機

室外機の設置スペースに注意

狭小住宅に引っ越してからの切実な問題としては、エアコンの室外機の設置場所です。
バルコニーにエアコン室外機を設置できれば良いのですが、狭小地の建物はバルコニーにスペースが足りず、室外機を設置できないこともあります。

その場合、建物周囲の敷地に室外機を設置しなければなりません。
しかし、離隔距離が50㎝以上ないと、エアコンの室外機の設置スペースを確保できない可能性があります。
分譲住宅では、エアコンの室外機の設置位置について、特別な考慮をせずに設計されていることが多いのです。

特に『路地上敷地(敷地延長や旗竿地)』と呼ばれる地形に建築された狭小住宅の場合は、玄関前以外は全て離隔距離50cm未満となる場合があります。
実際に、建物周囲にエアコン室外機を設置できず、玄関ドアの真横に設置せざるを得ない新築もありました。

従って、狭小住宅の建売住宅を購入する際には、内覧時にユーザー側でエアコン室外機設置位置についてチェックしなければなりません。

給湯器の設置位置と排気方向
給湯器

排気音/排気方向に注意

狭小住宅では、給湯器の作動音や排気方向でさえトラブルの原因となる場合があります。
具体的には、
・隣家からの排気/熱風が自宅に吹き込んでくる。
・夜間/早朝の動作音が気になる。
等の問題が発生します。

隣接地の建物の給湯器の設置位置が、自宅の開口部(窓やドア)の目の前では無いかは確認すべきです。

逆に、自宅の給湯器の設置位置が隣接地の開口部の目の前にある場合は、入居後クレームを言われる立場になる可能性があります。

事前にチェックして、設置位置に問題があれば契約前に改善してもらうよう指摘すべき事項です。

ドアや窓の開閉トラブル

狭小住宅では、玄関を開けたら目の前がすぐ道路という事が多々御座います。

その際に、開いた玄関ドアが道路にはみ出すという物件を目にした事があります。
ドアを開いた際に、歩行者や車両にぶつかる可能性があり、非常に危険ですので是正が必要です。

また、離隔距離が近すぎると、ドア、勝手口、すべり出し窓などを開いた際に、ブロック塀や隣接地建物に接触して、完全に開ききらない物件も存在します。
狭小住宅ではやむを得ない、良くあることですので、内覧時にチェックしておく必要があります。

離隔距離不足によるメンテナンス性の低下
離隔距離-足場

狭小住宅ではもっと余裕が無くなります

住宅を長持ちさせる為には定期的なメンテナンスが不可欠です。
特に外壁のメンテナンスは重要です。

外壁の種類がサイディングであれば10~15年後にコーキング工事が必要になります。
塗り壁や塗装仕上げの外壁ではれば、10~15年後に外壁塗装工事が必要です。

その際に必要なのが、工事現場で良く見かける『足場』です。
足場を設置するには、最低でも50~60cmは必要とされています。

離隔距離が近すぎると、外壁の修繕工事を実施する時に必要な足場を隣地に越境して設置することになります。
従って、隣接地と自宅のお互いが、離隔距離25~30cm以上を確保されていることが推奨されます。

例えば、同一分譲地内で隣接地と自宅の離隔距離が、お互い50cmを切っていたとしても、お互いに30cmの離隔距離を確保してあれば、合計60cmの距離を確保できます。

以前に離隔距離が互いに15cm程度の分譲地を見たことが御座います。
極端に離隔距離が少ない場合、メンテナンスに支障が出る可能性があります。

将来、メンテナンス工事を実施する際は、隣接地の居住者同士で協力して足場を設置して、必要なメンテナンス工事を実施する事になります。
理想は、隣接地と自宅が同時にメンテナンス工事を実施できれば、足場設置費用を折半出来るので経済的です。
また、円滑に修繕工事を実施するためには、近隣住民との関係も良好に保つ必要があります。


駐車できないビルトインガレージ

ビルドインガレージ

1階の殆どがビルトインガレージ

狭小住宅では、駐車スペースの確保のために、1階部分に『ビルトインガレージ』を採用した住宅が多く存在します。

実際に車が入るか確認が必要

図面に『ビルトインガレージ』の記載があっても、実際には車が入らない(入れられない)狭小住宅が見受けられます。
月極駐車場が月額3万円前後する都心部では『駐車できないなら、近所の駐車場を借りれば良い。』と、簡単に考えられません。

ご自身の車が実際にビルトインガレージに駐車できるか、確認する必要があります。

駐車できない理由の例

前面道路の幅員が狭い

前面道路の幅員が狭い(4m未満)の場合は、普通車(全長4.5m)が駐車できない場合があります。

図面上では、『駐車スペース』と記載されていても、前面道路の幅員が極端に狭かったり、家の目の前に電柱があったりすると、何度切り替えしても駐車することが出来ない場合があります。

前面道路の幅員が狭い

図面上では『駐車スペース』と記載されていても、幅や奥行が狭く、マイカーが入らない場合があります。
「スペースがギリギリで、駐車出来てもドアが開けられない。」という場合もあります。

隣接区画との共有や協定部分

2区画以上の分譲地の場合、互いに車庫入れを容易にする為に、車の内輪差を考慮して、「駐車スペースの一部を互いに乗り入れても良い。」旨を、『覚書』や『協定書』などの書式で約束する場合があります。

この場合「協定部分の敷地には、ブロック塀の設置などは出来ない。」などの約束を交わす場合がありますので、契約の際に良く説明を受ける必要があります。


耐震性能不足に注意

壁量が基準ギリギリの狭小住宅

現代の新築住宅の耐震性能は、壁量バランスが重要視されています。
壁量バランスとは、壁の配置バランスのことです。
しかし、ビルトインガレージを採用した狭小住宅では、車の入出庫のために大きな開口部があるため、壁量が極端に少なくなります。

一般に、3階建ての木造住宅では、建築確認申請時に構造計算がされているから安心と言われています。
しかし、建築確認や構造計算は、最低限の基準ですので、ビルトインガレージの狭小住宅では、基準ギリギリでクリアしている物件も少なくありません。

少しの手抜きで耐震性能が基準以下になる

また、施工上で石膏ボードのビス間隔の手抜き工事がありますと、耐震性能が基準以下になる狭小住宅も珍しくありません。
実際に、私どもで一般診断法による耐震診断を実施すると、狭小住宅の約1割で何らかの施工不良や耐震性能が基準に満たない物件を発見します。

狭小住宅の購入を検討する時には、必ず専門家による住宅診断と耐震診断を実施する必要があります。

地震に強い家と弱い家の見極め方についての記事はこちら↓

【住宅の耐震性能】地震に強い家と弱い家の見極め方を徹底解説


狭小住宅では天井高に注意

高さ制限の厳しいエリアが存在します

東京23区内では、建物の高さの制限(高度地区)が比較的厳しいエリアが多く存在します。
広告や図面の物件概要に『第一種低層住居専用地域』や『第1種高度地区』などの記載がある時は要注意です。

母屋下がり(もやさがり)
母屋下がり

最上階の天井は斜めになります

都市部に建つ3階建ての狭小住宅では、最上階の天井を勾配天井にして高度地区や北側斜線の規制を避けています。
このような勾配天井のことを『母屋下がり(もやさがり)』と言います。

完成物件であれば、実物を見て母屋下がりの状態を確認できますが、未完成物件を購入する場合は、平面図や間取図だけでは母屋下がりの状況を把握しにくいので、注意が必要です。

実際にあった事例では、
「間取図だけの未完成の状態で契約して、完成したら3階の部屋が足元から勾配天井となっていて、ベッドすら置けない。」
という相談を受けたことがあります。

このような事態を避けるために、狭小住宅を未完成状態で契約する場合は、必ず、完成時の母屋下がりの状態を確認しておく必要があります。

各階の天井高

都市部に建つ3階建ての狭小住宅では、高さ制限を避けるために、各階の天井高を調整していることがあります。 この事により、最上階の『母屋下がり』を最小限に抑えて建築することができます。

しかし、このような狭小住宅では、1階や3階の天井高が低い場合があります。
狭小住宅を未完成状態で契約する場合は、各階の『天井高』と『母屋下がり』について、事前に良く説明を受ける必要があります。


道路より低い位置に建築された狭小住宅

高さ制限を避けるための処置

通常の建築では、基礎の上にフローリングなどの床面があります。
しかし、都市部の狭小住宅では、高さ制限を避けるために基礎よりも低い位置に床面を施工することがあります。
このような狭小住宅では、湿気や雨水の侵入に注意が必要となります。

『基礎よりフロア(床)が低いかどうか?』を見極める方法は、玄関を開けて玄関の外の基礎の高さの位置と、室内フロア(廊下)の高さの位置を見比べると解ります。

しかし、外部から見ても基礎の構造は同じように見えますので、一般エンドユーザーでは区別し難いかもしれません。
出来れば専門家に同行してもらう事をお奨め致します。

フロアが低い事によるリスク

床上浸水のリスク

通常の建築では、道路から高い位置に建物を建築します。
しかし、第一種低層住居専用地域の北側斜線制限がある地域に狭小住宅を建築する場合は、高さ制限を避けるために、道路よりも低い位置から建物を建築します。

この場合、玄関が道路の高さと同等、もしくは道路よりも低い位置となりますので、集中豪雨時に床上浸水する可能性が高いです。
実際に、世田谷区で建築途中の段階で床上浸水した事例があります。

このような狭小住宅を検討する時には、浸水や内水の可能性が無いかをハザードマップなどで確認する必要があります。
また、役所の防災担当に物件所在を示して、ピンポイントで過去の水災履歴を確認することも可能です。

ハザードマップの見方はこちら↓

水害ハザードマップを確認して水害被害に備える~ 水害の可能性がある物件の見極め方 ~

湿気と結露のリスク

床が基礎より低い場合、1階の床から20~30cmの高さまでの壁の内部は、基礎コンクリートという状態になります。

基礎コンクリート部分と石膏ボードの間の断熱材の施工が不完全だったり、断熱材を施工せず、基礎コンクリートに直接石膏ボードを張ってクロス貼りをすると、室内の壁に結露が発生し腐食の原因になります。

このような、床が基礎より低い狭小住宅を検討する時には、基礎部分の断熱材の施工状況も確認する必要があります。

排水(下水)が『逆勾配』で流れないリスク

都心の狭小住宅では、建物全体の宅盤を下げて半地下にすることで、建物の高さ制限を回避している場合があります。
この場合、宅内の排水管の最終マスが、前面道路に埋設されている下水道管よりも低い位置に設置されていることがあります。

水は高い位置から低い位置に流れますので、この状態を『逆勾配』と言います。 『逆勾配』だと排水できません。

『逆勾配』の狭小住宅ではポンプを設置して、トイレや台所などの生活排水はポンプアップして下水道に流します。
ポンプ設備が故障したり停電が発生した場合、排水ができなくなるため、トイレなども使えなくなります。

また、ポンプ設備は機械ですので、定期的なメンテナンスと寿命が来たら設備交換が必要になります。
狭小住宅や半地下のある建売住宅は、排水についても注意が必要です。
この様な物件の場合は、建築設備に詳しい人に同行してもらい、一緒に内覧する事を推奨します。

床下空間が無い場合のメンテナンス問題

基礎の中に床を造っている場合、床下空間は殆どありません。
床下空間が殆どないという事は、メンテナンス性が悪いということです。

床下に空間が無いために、後から大切な土台を削って、設備の配管をしている狭小住宅を見たことがあります。
後から土台を削ってしまうと、削る位置にもよりますが、重大な瑕疵になる可能性があります。

床下空間が無い建物の場合、床下点検口自体を設けていないことも少なくありません。
このような住宅では、床下の点検をすることが出来ません。
上記のような土台が削られているような問題が有ったとしても、確認することが困難です。
点検口が無い建物には注意が必要です。


著書の紹介

こんな建売住宅は買うな
著書:『こんな建売住宅は買うな』幻冬舎