数字と計算で理解する『地盤調査報告書』
地盤調査報告書の数値と計算の意味
スクリューウェイト貫入試験(旧:スウェーデン式サウンディング試験)
2回クリックで再生します
数値と計算で理解する地盤調査報告書
2000年に建築基準法が改正されて、家を建てる時には地盤調査の実施が義務化されました。
新築一戸建て(建売住宅)を購入するユーザーにとっては、その家の地盤は気になることの一つと言えます。
ここでは、地盤調査報告書に出てくる数値と計算の意味について解説します。
旧『スウェーデン式サウンディング試験』
木造住宅を新築する場合は、一般に『スウェーデン式サウンディング試験』という方法で地盤調査を行います。
『スウェーデン式サウンディング試験』は、2020年のJIS改正により、正式名称が『スクリューウェイト貫入試験』という名前に変わりました。
名称の由来
スウェーデン式サウンディング試験とは、1917年にスウェーデンの鉄道の路盤調査で使われたことが由来です。
また、サウンディングという名称は、地盤調査をする際にロッドを地盤に差し込む時(sound)の音で地中の状況を確認することが由来です。
地盤調査報告書の見方
スクリューウェイト貫入試験では、これから家を建てる場所の四隅と真ん中に『スクリューポイント』という矢じりの棒を、最大100kgという重りで荷重をかけて刺し込んで、25cmごとの土の硬さを調べる方法で行います。
貫入深さ(D)
地盤調査報告書の見方は、表の上が地上で、下に行くにしたがって、地中深くの状況を表します。
「貫入深さ」(D)という部分をみると、スクリューポイントが何m貫入したかということがわかります。
0.25m、0.50m、0.75m・・・・という感じです。
荷重(Wsw)
次に、表の左側には「荷重Wsw」という欄があります。
例えば、ここに 0.25kNと記載されていれば 重り25キロの荷重。
0.50kNであれば 50キロ、0.75kNであれば 75キロの荷重。
つまり、Wswの欄に 1.00と記載されていれば、重り100キロの最大荷重をかけてスクリューポイントを貫入したことになります。
半回転数(Na)
次に、このWswの隣には 半回転数(Na)という欄があります。
最大100kgの重りで荷重をかけてもスクリューポイントが入って行かない場合は、スクリューポイントを回転させて、ねじ込んで貫入します。
例えば、深さ25cm貫入するためにスクリューポイントを2回、半回転させたら、このNaは 2という数値となります。
なぜ半回転なのか?
手でレンチを回すことを想像してみてください。
手回しだと、1回で1周させることは難しいです。
手動でスクリューポイントを回転させるときも同様です。
近年では、機械で回転させることが多いですが、今でも半回転を 1カウントとして計算します。
1mあたりの半回転数(Nsw)
次に、Nswという欄があります。
先程のNaは25cm貫入させるための半回転数でした。
Nswは1m貫入する時の半回転数のことです。
1mは、25cmの4倍ですので、Nswは単純にNaを4倍した数値となります。
地盤調査では、『1平方メートルあたり、何キロニュートンまでの圧力まで耐えられる地盤か?』という、支持耐力(qa)を算出します。
支持耐力を計算する時には、この1mあたりの半回転数(Nsw)という数値が必要になります。
簡単に言うと、半回転数(Nsw)の数値が大きくなれば、地盤が固いという意味です。
通常、Wswの数値が0.75kN以下となると、回転させずに重りの荷重だけでスクリューポイントが自沈したことになります。
したがって、柔らかい地盤であると判断できます。
Wsw 1.00が目安
Wswの数値が1.00kNで、Nswの数値が0回転であれば、100kgの荷重をかけてスクリューポイントが自沈したことになります。
これなら、べた基礎の木造住宅であれば、支持耐力があると判断できます。
地盤調査報告書の見方の目安
- ・地表から2mまでのゾーンでWswが1.00kN(荷重100㎏)の自沈
- ・2mから5mまでのゾーンで0.5kN(荷重50㎏)の自沈が多ければ地盤改良が必要
少なければ、べた基礎の木造住宅なら耐えられる
とされています。
設計接地圧20kN/㎡とは?
この耐えられるという基準は『設計接地圧』数値で表すことができます。
接地圧とは、家を建てたときに地面へかかる圧力のことです。
- ・べた基礎の木造2階建では、1平方メートルあたり、15~20kN
- ・べた基礎の木造3階建では、1平方メートルあたり、20~25kN
この数値が一般的な設計接地圧の目安です。
許容支持耐力(qa)がポイント
地盤調査報告書の1番右側の列を見ると、支持耐力(qa)という欄があります。
これは、『1平方メートルあたり何キロニュートンの接地圧まで耐えられるか?』という地盤調査報告書の中で最も重要な数値の一つです。
設計接地圧が1平方メートルあたり、20kNのべた基礎の木造住宅を建築する場合は、最低でも、地盤調査報告書の支持耐力の数値(qa)は、この設計接地圧よりも大きくなければなりません。
もし、地表から2mまでの深さで、支持耐力の数値が足りないゾーンが多くあれば、地盤改良が必要と判断するのが妥当となります。
これが一つの目安となります。
許容支持耐力(qa)の計算方法と考え方
支持耐力(qa)の計算方法は3種類ありますが、ここでは、現在最も使われている計算方法の『住宅地盤品質協会推奨式』をご紹介します。
それが、
qa=30×Wsw+0.6×Nsw
という計算式です。
許容支持耐力30kN/㎡の例
これは、100kgの重さの荷重をかけてスクリューポイントが自沈する地盤であれば、1平方メートルあたり30kNの支持耐力という計算です。
許容支持力30kN/㎡であれば、べた基礎の木造住宅なら耐えられるとされています。
許容支持耐力15kN/㎡の例
50kgの荷重でスクリューポイントが自沈する地盤であれば、30kN×0.5kNと計算しますので、支持耐力は、1平方メートルあたり、15kNとなります。
許容支持力15kN/㎡であれば、べた基礎の木造住宅を建築する場合は、数値が足りない地盤と判断します。
許容支持耐力49.2kN/㎡の例
荷重100kgでも自沈せず、回転して貫入した場合は、1mあたりの半回転数であるNswの数値に0.6をかけた数値を30kNに加えることになります。
そのため数値が大きくなります。
例えば、Wswが1.00kN/㎡で、Nswが32だとすると
(30×1)+(0.6×32)=49.2
という計算になります。
従って、支持耐力(qa)は、1平方メートルあたり、49.2kNということです。
べた基礎の木造住宅の設計接地圧は、20kN/㎡ですので、数値上で上回っていることがわかります。
許容支持耐力(qa)が設計接地圧を上回っていることが重要
住宅を購入されるユーザーは、ここまで覚える必要はありません。
べた基礎の木造住宅なら、設計接地圧の目安は、20kN/㎡という事だけ覚えておけば、地盤調査報告書の支持耐力(qa)の欄を見れば、それだけでも意味が分かるようになります。
間違いやすいポイント
設計接地圧20kN/㎡と、N値2.0を混同している人もいますが、これは違いますのでご注意ください。
換算N値の計算方法
一般に、粘性土と砂質土では、換算N値の計算式が異なります。
- ・粘性土N=3×Wsw+0.050×Nsw
- ・砂質土N=2×Wsw+0.067×Nsw
換算N値の計算も支持耐力(qa)の計算と同様に、Wswと1mあたりの半回転数Nswが関係します。
粘性土と砂質土では、重りの荷重(Wsw)、半回転数(Nsw)が同じ場合は、支持耐力(qa)は、計算結果は数値になります。
しかし、換算N値の計算では、砂質土よりも粘性土の方が数値が大きくなります。
例えば、Wswを1.00kN/㎡、Nswを4で計算すると、
- ・砂質土では、換算N値2.3
- ・粘性土では、換算N値3.2
という数値になります。Excelで計算してみました。
N値や支持耐力は、手計算だと少々大変ですので、私は、これらの関数をExcelに入力して、色々な地盤のパターンを試して、地盤調査の数値の理屈を理解しました。
例えば、Wsw(100kg)で半回転数0回(自沈)した場合は、砂質土と粘性土の「qa(許容支持耐力)」は、ともに30.0kN/㎡となりますが、砂質土の換算N値2.0、粘性土は3.0となります。
地盤調査報告書を見るときは、換算N値だけで判断するのではなく、地表から深さ2m以内と、深さ2mから5m以内の、それぞれの支持耐力(qa)を見ることが重要です。
ここでは、数値的なお話しかしていませんが、地盤を見るときには、地形、腐植土、安息角なども含めて総合的に見ることも大切です。
住宅の耐震性能に関する記事はこちらです↓
【住宅の耐震性能】地震に強い家と弱い家の見極め方を徹底解説
【YouTube】腐植土の土質は要注意!!
腐植土の土質は要注意!!
~この地盤改良で本当に大丈夫か?~
2回クリックで再生します
以下は、2022/08/25 放送
不動産せんせい田中の【教えて!不動産の知恵袋】で取り上げられた内容です。
それでは、次の質問に移りたいと思います。
はい。
次は、『東栄住宅の建売住宅の地盤調査と地盤改良について不安な点がある。』というリスナーさんから質問を頂きましたのでご紹介します。
ご質問の文章をそのまま記載すると長くなってしまうので、私の方でご質問の要点をまとめさせていただきました。
それでは、ご紹介します。
リスナー様からのご質問
地盤調査と改良工事で不安な点があります。
こんにちは。
マツケンと申します。
いつもyoutubeでの配信楽しみにしています。
さっそくですが、質問があります。
現在、東栄住宅の2階建ての新築一戸建ての購入を検討しています。
9割方購入するつもりですが、地盤調査と改良工事で不安な点があります。
・・・
※以下は文章をまとめたものとなります。
地盤の状況をまとめると・・・
- ① スクリューウェイト貫入試験で敷地の9ヵ所で地盤調査を実施した。
- ② 9ヵ所のうち8ヵ所で深さ2mあたりで支持層がでたが1ヵ所では14mでも支持層がない。
- ③ 地盤調査結果で、軟弱な地盤と推測されるため、地盤改良が必要と判断された。
- ④ 有機質土が堆積している懸念がある。
- ⑤ この地盤調査の結果、地盤改良の方法は、長さ14mの鋼管杭を36本施工されている。
ラジオネーム:マツケンさんからのご質問(※一部まとめさせていただきました)
地盤調査の方法が適切か?
ラジオネーム:マツケンさん ご質問ありがとうございました。
この中で、
4.有機質土が堆積している懸念がある。
という記載がありますが、有機質土とは、別名『腐植土』と言います。
腐植土とは、植物の遺骸が堆積してできた土で、比較的軟弱な土質のことです。
色は、黒くベチャベチャした土で、葦が茂っている沼地のようなロケーションをイメージさせます。
腐植土
沼・湿地のイメージ
腐植土は、普通の土の2倍以上の水分を含んでいることがあり、通常の柱状改良ではセメント量に対して水量が多くなり、杭の強度が低下する恐れがあります。
そのため、今回の土地では、鋼管杭が使われているのだと思います。
支持層がない部分は14mの鋼管杭を入れているとのことですね。
マンションのような重い建物は、岩盤まで杭を打ち込んで杭の先端で建物を支えますが、木造住宅のような軽い建物の杭は、周面摩擦で建物を支えています。
鋼管杭の打ち込み
地盤調査報告書を直接見たわけではないので、はっきりしたことは言えませんが
- ・有機質土(腐植土)で鋼管杭を選択している点。
- ・支持層がないところは、14mの長い鋼管杭を入れて周面摩擦により建物を支えているという点。
相談者様が購入を検討している土地は、適切な地盤改良工事である可能性が高い。
また、ご不明な点などが御座いましたら、お気軽にご質問くださいね。